「浸水被害防止区域」の新設で「既存不適格物件」増える?特定都市河川浸水被害対策法の改正案を読み解く
気になるニュースがありましたので、調べてみました。
浸水リスク地域 新規住宅に建築制限 法律改正案を閣議決定
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210202/k10012845311000.html
相次ぐ水害を減らすため、国は浸水リスクの特に高い地域で、新たに住宅などを建てる際、都道府県が建築制限を行えるようにする法律の改正案をまとめ、2日、閣議決定しました。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210202/k10012845311000.html
このニュースでは詳細がわからず、また国土交通省の発表している案文そのままだと霞ヶ関文学で非常にわかりにくいので、新旧対象条文1特定都市河川浸水被害対策法等の一部を改正する法律案 新旧対象条文
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001385281.pdfをみてみます。
非常にかいつまんで説明をすれば、以下の通りです(と、思います)。
- 新たに「浸水被害防止区域」が新設されます
- これは都道府県知事が指定します
- 主にハザードマップ他、各種法令や省令によって定められる区域を知事が指定することが「可能」です(指定しなくともよいです)
- 「特定都市河川2総合治水・特定都市河川一覧https://www.mlit.go.jp/river/toukei_chousa/kasen_db/pdf/2020/4-3-16.pdf」に指定された川の流域を「浸水被害防止区域」に指定することができます
東京・神奈川エリアだと、現在は以下の川が「特定都市河川」です。
- 鶴見川
- 新河岸川
- 中川・綾瀬川
- 神田川
- 残堀川
- 境川
これらの流域エリアでは、ハザードマップに合わせて、通常の建築基準に加えて、都道府県が指定している場合は、以下のような要件を満たさなければ許可なく建物を建築することができなくなります。
- 地区整備計画で指定された建築物の敷地の地盤面の高さの最低限度
- 地区整備計画で指定された建築物の居室の床面の高さの最低限度
対象となる建物は
- 住宅(自己の居住の用でないもの≒業者が建てる建物、分譲戸建、分譲マンションなど)
- 社会福祉施設
- 学校
- 医療施設
- その他市区町村で定めたもの
です。
私は法律の専門家ではありませんので、読み違いをしているかもしれません。誤りがあればご指摘ください。
将来的に既存不適格になるのか?
さてそれではこの「浸水被害防止区域」に指定された場所にある、既存の不動産への影響はどうなるのでしょうか。考えてみました。
前述した「敷地の地盤面の高さの最低限度」または「居室の床面の高さの最低限度」が満たされていなければ、再度その土地に建物を建てる際には、造成時に盛土をするなり、擁壁を設置するなり、居室を空中階の高い階にする、といった必要がでてきます。
これらに似たような制限としては、
- 二項道路に面した「再建築不可」物件
- 1981年より前に建築された「旧耐震」物件
などがあります。詳しくはそれぞれをググっていただければと思いますが、いずれも再建築のコスト増につながる制限です(既存不適格物件となる)。
また「浸水被害防止区域」自体は、事実上「土砂災害警戒区域」、「造成宅地防災区域」、「津波災害警戒区域」などの区域と、法的に同程度のリスク格上げになる可能性が高いでしょう(債券の格付けでいえばA→BBBになるようなイメージ)。
ただし一説によれば『「居室」でなければOK(適格)なのでは』との噂もあり、その場合は「地上階が納戸、サービスルーム、またはガレージのみの4階戸建て」が某ぷんはうせにより勢力を拡大するのではないでしょうか。しかしながら流石にそのような状況が数年続けば、お上からの怒られが発生するような気もします。
現状は不確定要素が多いので、今後もこの法律の動向をウォッチしていきたいと思います。
参考にした条文案
特定都市河川浸水被害対策法
第五十六条 都道府県知事は(中略)特定都市河川流域のうち、洪水又は雨水出水が発生した場合には建築物が損壊し、又は浸水し、住民その他の者の生命又は身体に著しい危害が生ずるおそれがあると認められる土地の区域で一定の開発行為(中略)及び一定の建築物(中略)の建築(中略)の制限をすべき土地の区域を、浸水被害防止区域として指定することができる。
前項の規定による指定は、当該指定の区域及び基準水位(第四条第二項第四号に規定する水深に係る水位)(中略)その他の国土交通省令で定める事項を明らかにしてするものとする。
第四条第二項第三号 特定都市河川流域において都市洪水又は都市浸水の発生を防ぐべき目標となる降雨
第四条第二項第四号 前号の降雨が生じた場合に都市浸水が想定される区域及び浸水した場合に想定される水深
第五十七条第二項 制限用途とは、次に掲げる予定建築物の用途をいい、予定建築物の用途が定まっていない場合においては、当該予定建築物の用途は制限用途であるものとみなす。
一 住宅(自己の居住の用に供するものを除く。)
二 高齢者、障害者、乳幼児その他の特に防災上の配慮を要する者が利用する社会福祉施設、学校及び医療施設(政令で定めるものに限る。)
三 前二号に掲げるもののほか、浸水被害防止区域内の区域のうち、洪水又は雨水出水の発生時における利用者の円滑かつ迅速な避難を確保することができないおそれが大きい区域として市町村の条例で定めるものごとに、当該市町村の条例で定める用途3市町村(指定都市等を除く。)は、前項第三号の条例を定めるときは、あらかじめ、都道府県知事と協議し、その同意を得なければならない。
都市計画法
第十二条第七項
地区整備計画においては、次に掲げる事項(中略)を定めることができる。
第十二条第七項第二号
建築物の敷地の地盤面の高さの最低限度、(中略)建築物の居室の床面の高さの最低限度